1 退職勧奨とは
 退職勧奨とは、使用者から労働者に対して、退職の意思表示を促す働きかけのことで、日本では解雇のハードルが極めて高いこともあり、実務上しばしば行われています。
 退職勧奨は、労働者の自由な意思表示を促す事実上の行為ですので、それ自体に法的な効果はなく、違法なものでもありません。ただし、退職勧奨に応じるか否かは、あくまでも労働者側の自由な意思により決定するものですので、その自由意志を妨げるような働きかけを行ってしまうと、違法となり、損害賠償請求を受ける可能性もありますので、慎重に行う必要があります。
 裁判例においても、「労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる程度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的威迫を加えたりその名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする退職勧奨は不法行為となる。」と判断されております。
 以下では、退職勧奨において注意すべき点について、簡単にご説明させていただきます。

2 退職勧奨における注意点
(1)退職勧奨に至る前段階における注意点
 退職勧奨は、労働者の退職に関する合意形成のために行うものですので、労働者側が、何故自分が退職を求められるのか、その理由について納得できなければ、退職の合意を得られる可能性は低くなってしまいます。
 そのため、退職勧奨に至る前に、対象となる労働者の問題を具体的に指摘し、適切な指導を繰り返し行って改善を促し、労働者に自らの問題点について自覚してもらうことが重要となります。また、そのような注意指導を行っていることについては、書面等に残して証拠化しておくことが望ましいでしょう。このようなプロセスは、解雇も見据えているようなケースにおいては、解雇の適法性を基礎づけるためにも重要な点となりますので、この点からも、きちんと段階を踏んでおいた方がよいでしょう。

(2)面談に関する注意点
 ①場所
 他の従業員の目や耳に触れないよう、個室の会議室等のプライバシーの守られる場所で行うようにしましょう。

 ②時間
 業務時間内に行い、1回の時間としては、長時間にならないよう、30分~1時間以内に収めるようにしましょう。

 ③回数
 ケースバイケースですが、回数が多くなりすぎないように、2~3回程度が望ましいです。また、明確に退職を拒否された後の退職勧奨については、執拗な退職勧奨を行ったものとして違法と評価されやすいので注意しましょう。

 ④出席者の人数
 使用側の人数が多いと、労働者が心理的な圧迫を受けたと評価されやすいので、使用者側は2~3名以内が望ましいでしょう。

 ⑤説明内容、表現方法等
 退職を求める理由を、これまでの経緯を踏まえ具体的に説明し、労働者の話も十分に聞いた上で、退職に応じるか否かは自由意志によるものであることについても説明しておきましょう。また、冷静で穏やかな口調で説明・対応することを心がけ、労働者を中傷したり、名誉を傷つけるような表現は決して行わないようにしましょう。
 加えて、実際には他の選択肢があるにもかかわらず退職に応じるしか選択肢が無いかのような言動があると、違法と評価されるリスクが極めて高くなりますので、注意しましょう。

 ⑥検討期間の付与
 労働者に対してその場で結論を出すように求めず、検討の時間を与えるようにしましょう。

 ⑦条件提示
 退職金・慰労金の支給や上乗せ、再就職先の斡旋等といった退職条件の提案を検討すべきケースも考えられます。労働者が条件に応じた場合、自由な意思で退職を選択したことを基礎づける一事情となります。

 ⑧証拠化の必要
 面談の内容については、録音や議事録の作成等で証拠化するようにしましょう。

(3)退職合意書締結の必要性
 労働者が退職に応じる場合は、証拠化のために、必ず退職合意書を作成しましょう。
 退職合意書には、少なくとも、①退職日、退職事由、②退職条件、③秘密保持条項、④清算条項を盛り込むようにしましょう。