皆様の多くが経験されると思われる相続問題。最近は、不動産相続登記の義務化という法改正もあり、メディアなどでも頻繁に取り沙汰されるようになりました。そこで、今回は、相続問題のうち、遺言書作成という点に焦点を当て、遺言書がある場合とない場合とでどのような結果を招くことになるか、そして遺言書にはどういったものがあるかについて、簡単にご説明差し上げたいと思います。


1 遺言書を作成しない場合、相続はどうなる?

 例えば、家族4人(夫、妻、長男、次男)のうち、夫が死亡し相続が発生したとします。そして、夫には遺産として、自宅土地建物(時価3000万円)、預貯金(合計1000万円)、株式(死亡時評価額700万円)、自動車(時価300万円)の合計5000万円の財産があったものとします。
 このとき、夫の遺言書が作成されていない場合、民法上の法定相続分に沿って遺産分割を行うことが原則となりますので、その割合は妻が2分の1、子供1人あたり4分の1で、妻は合計2500万円分の財産を、長男と次男はそれぞれ合計1250万円分の財産を取得する権利があります。しかし、妻が自宅土地建物を単独で取得すれば、法定相続分の2500万円を超過してしまうため、長男と次男がその分割方法に納得しない場合には遺産の分配をめぐって争いになり、遺産分割協議が進まなくなる可能性があります。また、遺産分割協議がまとまったとしても、預金の払戻し等のために相続人全員で合意ができる遺産分割協議書を作成し、署名捺印しなければなりません。
 他方で、例えば、夫が、「自宅土地建物は全て妻へ、預貯金は長男に、株式と自動車は次男にそれぞれ相続させる。遺言執行者に妻を指定する。」という趣旨の遺言書を作成していた場合には、遺言書で法定相続分と異なる分配も可能ですから、相続の際にはその遺言書に従って、妻が遺言書の内容を実現する遺言執行者として全ての遺産分割手続を行えばよく、後記の適切な手続きを経れば、遺産分割協議書を作成せずとも遺言内容を実現することができます。
 他にも、上のケースで夫の法定相続人とならない者(例えば孫や兄弟など)に財産を遺したい場合にも、遺言書で定めておけば実現することが可能となります。

 上記はほんの一例ですが、遺言書を作成しておくことによって、遺言者の意思を正確に実現できるメリットや相続人間の紛争のリスクを予防することができるメリットがあります。


2 遺言書の作成方法
 では、遺言書はどのような方法で作成するのでしょうか。
 よく利用されるものとしては、①自筆証書遺言と②公正証書遺言の2パターンがあります。①自筆証書遺言は、遺言者の直筆で遺言書を作成する方法です。作成手続は簡便ですが、この遺言書の場合には、その遺言書に沿った遺産分割手続(預貯金の払い戻しなど)を行うためには家庭裁判所に対し検認手続を申し立てる必要があり、実行段階に煩雑さが伴います。この点、近年、自筆証書遺言の保管制度というものが設けられ、最寄りの法務局で自筆証書遺言を保管することが可能になりました。そして、この制度を利用すれば家庭裁判所の検認手続は不要となります。この制度は数千円で利用することができますので、コストも低く、今後ますます利用が増えることが予想されます。
 一方、②公正証書遺言は最寄りの公証役場にて公正証書の形式で遺言書を作成する手続です。この遺言書の場合、上記の検認手続は不要となり、遺言執行者によって、速やかに遺言書の内容を実行に移すことができます。そして、公正証書の場合には、公証人が本人に確認した上で作成するものですので、万が一遺言書の有効性が裁判で争いになったときに、自筆証書遺言よりはその有効性が認められることが多いことがメリットとして挙げられます。
 もっとも、公正証書は作成のために証人2人の立会いが必要となり、公証役場との事前のすり合わせが必要となりますので、遺言内容によってはその作成方法が煩雑になる可能性があります。また、費用も①に比べると割高となっています。

 このように、遺言書作成も、遺言者の状況に応じてどちらを選ぶのが良いか検討する必要があります。遺言書作成をお考えの際は、是非事前に弁護士までご相談いただければと思います。