1 介護施設から、「利用者から『お世話になったので、自分が死んだ後は自分の財産は、施設(場合によっては担当職員)にあげたい。』と相談されている。どうしたらよいか。」という相談をうけることがあります。
 近時、少子化が進行しており、また、親族間の関係性が希薄化する中、このようなケースが増えているようです。
 なお、このテーマは利用者に相続人がいるか否かとは関係ないテーマということになります。

2 対応方法としては、①利用者に遺言書を作成してもらう。②利用者と施設の間で、書面による死因贈与契約を締結するという方法が考えられます。
 特に上記方法をとらずに、事実上の贈与を受けるという方法もありますが、相続人との間でトラブルが発生しやすいですし、施設側のコンプライアンス上もそのような方法はとらない方が良いでしょう。

3 先ず、前提として、いずれの方法も利用者が自らの行為について十分に理解してその結果も認識した上で行われなければ法律上は無効となる可能性が高いです。従って、認知症がかなり進行している状況では難しいことになります。
 この点に関しては、後日の紛争・トラブルを回避するために、直近に認知機能に関し医師の診断を受ける、作成時に医師・弁護士に立ち会ってもらう、作成時の状況を動画に撮り保存しておくことが考えられます。

4 遺言書作成の場合、可能ならば公正証書遺言を作成することが望ましいです。
 公証人が作成するため、後日、無効とされる可能性が低いですし、公証役場が遺言書を保管するため紛失等のリスクもありません。もっとも、公正証書遺言を作成するには規定の費用が発生します。
 公正証書遺言が作成出来ない場合には、自筆証書遺言を作成する方法があります。自筆証書遺言が有効となるためには、①遺言書全部を自筆で手書きする(但し、添付財産目録を除く)、②作成日付を記載する、③氏名を記載する、④押印する(認印でも有効ですが、実印がのぞましいです)のすべての要件を満たす必要があります。
 利用者が文字を書くことができなければ、この方法を取ることはできません。

5 死因贈与契約を締結することも考えられます。
 こちらの方法は、利用者と施設の間で契約を結ぶ方法で、遺言書ほど厳密な要件は要求されず、利用者は署名だけでもすむので簡便ではあります。しかしながら、実務上、金融機関は約款で、死因贈与は口座の債権譲渡にあたるとして認めていないようですので、最終的な引き出しが極めて難しいです。
 金融機関の預貯金がある場合は、この方法をとることはお勧めできません。

6 上記で説明したとおり、この問題については、なかなか難しい点も多く、利用者の方のお気持ちを確実に実現するために、その方法・手続、作成する書面の内容、将来の紛争防止策等の検討が必要となるので、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。